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今回は、スポーツ用品メーカーで実際に働く私が、スポーツ用品メーカー各社の経営戦略を様々なデータを見ながら徹底解説してみたいと思います。
みなさんは、「スポーツ用品メーカー」(※以下、メーカー)と言えばどんなメーカーが思い浮かぶでしょうか??
ナイキやアディダスでしょうか?
ナイキ、アディダスはスポーツメーカー売上の世界第1位、第2位の企業です。
では「日本のスポーツメーカー」と質問を少しだけ変化させてみてください。
思い浮かぶのはミズノやアシックスといったメーカーでしょうか。
では、ミズノやアシックスは世界の順位はどれくらいでしょうか?
そしてナイキやアディダスとはどれくらいの差があるのか、考えたことがありますか?
今回のテーマ「スポーツメーカーの経営戦略」では、各メーカーが継続的な発展のために「どこに」お金を使っているのか。
この部分について日本を代表するメーカー4社に絞ってお伝えできればと思います。
お伝えするにあたって、2019年度の有価証券報告書の中から、
・売上
・経常利益
・投資額
今回の経営分析で使用する財務的指標
この3点に絞りまとめたいと思います。
※「売上」と「経常利益」は「損益計算書」から、「投資額」は「キャッシュフロー計算書」から引用しています。
私自身も、有価証券報告書をみて詳しい分析ができるか?
といったら「できません」と答える人間なのでご安心ください。
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「アシックス」の経営戦略
まずは、日本のスポーツメーカーで最も売上高の高いアシックス(株式会社アシックス)から見て行きます。
売上は「約3780億円」になります。(2019年度)
アシックスの特徴としては、世界の様々な地域でグローバル展開している点です。
この後にご紹介する「ミズノ」や「デサント」といったメーカーも、もちろんグローバル展開をしています。
しかし、それらのメーカーが「アジアを中心に展開」などの「地域集中型経営」をしているのに対して、アシックスは日本を含めたアジア、欧州、欧米全てにおいて、自社のシェアを伸ばすべく企業努力をしております。
では具体的に、どのような企業努力をしているのでしょうか?
この部分が有価証券報告書の中にある「投資」の部分です。
「投資金額」は、どの部分にお金を投資しているか読み取れます。
アシックスは日本の企業で最も「投資」に力を入れている企業です。
アシックスが「投資」を行っている分野は大きく分けて「設備投資」「マーケティング」「Eコマース」の3つです。
海外への積極的な設備投資
全世界で売上を伸ばすべく活動しているアシックスですので、当然ですが全世界に「拠点」となる場所が必要です。
アシックスといえば「ランニングシューズ」を思い浮かべる人も多いと思いますので、シューズを例に挙げさせていただくと、
・デザイン
・機能性
・価格帯
など、同じ時期に発売を予定している商品でも地域によって求めるニーズが異なります。
ですので、現地に「支社」を置き、その地域にあった商品開発や、実際に商品が発売し販売数を伸ばすためのマーケティング施策が必要になってくるのです。
実際に有価証券報告書を見てみると、
・北米地域における直営店の新規出店
・欧州地域におけるオフィス移転
・中華圏地域における直営店の新規出店
という項目が記載されております。
こうしたことからもアシックスの積極的な海外展開をうかがい知ることができます。
メディア露出を含めたマーケティング施策(ゴールデンスポーツイヤー)
こちらの項目は特に2019年~2021年までの重要な施策となり、記事を読んでくださっている方々をはじめ多くの人が興味・関心が深い分野だと思います。
皆さんもご存知の通り、2019年~2021年は「ゴールデンスポーツイヤー」と呼ばれています。
・2019年 ラグビーワールドカップ
ゴールデンスポーツイヤーとしてのスポーツイベント
・2020年 東京オリンピック・パラリンピック※2021年度延期
・2021年 関西ワールドマスターズ
アシックスは、この3年間で積極的にメディア露出をして、アシックスを世界に広めようとしています。
施策の1番の柱としては、「2020年東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナー」になったことです。
※オリンピックのパートナーについての詳しい記事は公式HPをご参照ください。
オリンピックのパートナーになることのメリットとしては、
・オリンピックで自社の宣伝ができる
企業がオリンピックのパートナーになることのメリット
・公式ライセンス商品が制作・販売できる
・CMなどで「当社はオリンピックのゴールドパートナーです」とアピールできる
などのメリットが主にあげられます。
世界中が注目するビッグイベントになりますので、世界にアシックスを広める絶好のチャンスとなります。
ただし、デメリットもあります。
1番のデメリットは、「高額な契約金」です。
ゴールドパートナー1社あたり、「年間25億円」とも言われております。
このメリット、デメリットを考えたうえで、アシックスとしては、年間25億円払うだけの「価値」があると判断し、オリンピックのゴールドパートナーとなったのです。
Eコーマスへの投資
近年、小売業を中心に発展しているのが「Eコマース(以下EC)」(ネットショッピングやオンラインショッピング)の分野になります。
もちろんスポーツ業界でも進んでいて、アシックスは投資施策の1つとし「EC」への投資を重視しています。
2018年11月にはECサイトの全面リニューアルを行い、ユーザーがどんな商品を求めているのかといった検索履歴をAIで分析することによって、好みの商品を自動検索してくれる機能を新設するなどの強化を行いました。
ただ、それでも世界NO.1スポーツメーカーの「NIKE」のECサイトと比べると差は歴然です。
私が消費者の立場でNIKEのECサイトを見て、「買いやすい!」と思った点を3点ほど挙げさせて頂きます。
・商品画像がバーチャル
・チャットによる質問を受け付けている
・トータルコーディネートの提案がある
商品を売るというよりは、「商品を購入した先にあるお客様の満足を売っている」というイメージでしょうか。
3つ目に挙げさせていただいた、「トータルコーディネートの提案」の部分では、実際に商品を買った一般人のインスタグラムでの投稿から、どのように商品を使用しているのか具体的なイメージができるようになっており、購入の際にとても参考になります。
後追いの形にはなると思いますが、アシックスもまずはNIKEを目指して、日本のNO.1スポーツメーカーとしての奮起が期待されます。
「ミズノ」の経営戦略
次に売上規模が日本で第2位のミズノ(ミズノ株式会社)についてご紹介します。
ミズノの売上は約1,697億円です。(2019年度)
アシックスとは売上規模で表すと約2倍もの差があります。
「意外だな」と思った方も多いと思います。
理由は、私たちが日本人だからです。
日本の市場シェアを「ミズノ vs アシックス」で比較すると、種目による差はありますが、ほとんど変わらないと思います。
分かりやすい例を1つ挙げるとするなら、バレーボール日本代表のユニフォームを見て頂くと、男子はアシックス、女子はミズノとなっており両者で半々となっております。
では、どこで「2倍」もの差が出ているのか。
それは「世界(日本国外)」での売上の差です。
特にミズノは欧米諸国でのシェアが低いという課題があります。
この課題を克服するべくミズノの設備投資の金額順は、
①日本(62%)
②欧米・欧州(36%)
③アジア(4%)
となっており、アジアと比べると欧米市場に対して大きな投資をしていることが分かります。
次にミズノが投資をしている分野は「商品開発」です。
企業理念に「より良いスポーツ用品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」とあるように、
・モノづくりならミズノ
・ミズノの商品なら間違いない
という「信頼」こそが、人々がミズノの商品を買う1つの大きな理由でもあり、企業として継続的に投資を行っている部分になります。
ちなみに売上に対する投資額をミズノとアシックスで比べてみると、
アシックス121億円(3.1%)
ミズノ19億円(1.1%)
※()内は売上に対する割合
とアシックスの方がより投資に会社として力を入れていることが分かります。
特に先ほどご紹介した、
・メディア露出を含めたマーケティング施策(ゴールデンスポーツイヤー)
・ECビジネスへの投資
という部分では「企業の成長のための投資」という点が2社の大きな差だと感じます。
「ヨネックス」の経営戦略
ヨネックス(ヨネックス株式会社)といえば、思い浮かぶのは「テニス・バドミントン」といった競技でしょうか。
イメージ通り、テニス・バドミントンへの投資が多くなっております。
大きな投資の内訳としては、
・商品開発
・設備投資(コートの修繕や、テニスコートの新設など)
そして、投資をする地域も「アジア」に集中しています。
その理由はバドミントンの世界ランキングを見て頂けると分かると思います。
男子シングルスでは桃田選手が1位
女子シングルスでは山口選手が3位、奥原選手が4位
※この記事を書いている2020年9月時点のランキング。
という日本人のトッププレイヤーをはじめ10位以内の選手の多くがアジア諸国の選手なのです。
アジアで盛んなバドミントンという競技特性を生かした投資という事が、このことから見えてきます。
「デサント」の経営戦略
デサント(株式会社デサント)というと皆さんはどんなスポーツを思い浮かべますか?
知っている方も多いと思いますが、念のためおさらいです。
・アンブロ(サッカー)
・ルコックスポルティフ(アパレル、ゴルフ)
・アリーナ(スイム)
これらの有名ブランドは全てデサントブランドです。
逆にデサントブランドで商品を展開しているのは、野球とメンズアパレルぐらいなものでしょうか。
デサントの売上は1,422億円(2019年度)で、第2位のミズノとの差は約200億円。
冒頭に説明した通り、様々なブランドをカテゴリーに合わせて展開していることが売上に繋がっている一つの大きな要因です。
そしてもう一つの大きな要因は「アジアでの市場シェア」になります。
2019年度の売上は日本よりもアジアで稼いだ額の方が上回っています。
・日本市場 560億円
・アジア市場 640億円
ちなみに、私は大学時代にデサントの新卒採用面接を受けましたが、中国語ができるとかなり有利になります。
※私はできませんので、お祈りメールをいただきました。(もちろんそれだけが理由ではありませんが…)
そして、中期的な会社の経営戦略の中にも「アジアへの集中」という戦略を掲げているように、会社の投資もアジアに集中したものになります。
※特に中国、台湾、韓国には力を入れております。
2019年の有価証券報告書を見ると、韓国に大規模な倉庫を設立し、よりアジアのシェア拡大を狙っていることがわかります。
ただ一方で、売上の昨年対比をみてみると81%と苦戦しており、課題ともいえそうです。
韓国の倉庫設立の他にも、アジアへの新店出店や研究開発が投資のメインとなっているようです。
おわりに ~スポーツ用品企業の「価値」とは?~
最後になりますが、世界(NIKE、adidas)と日本の4社を「時価総額」という視点で比べたいと思います。
時価総額とは、一言で表すと企業の「価値」です。一般的には、時価総額が高い企業ほど、「将来に渡って高い収益を生み続けることができる企業」であるとみなされています。
NIKE 10兆円
adidas 5兆円
アシックス 2,700億
デサント 1,400億
ヨネックス 570億
ミズノ 490億
主要スポーツメーカーの時価総額
ご覧の通り、日本でトップメーカーのアシックスでも、世界トップのNIKEとは約37倍もの差があります。
だからといって、NIKEのシューズとアシックスのシューズにそれだけの差があるのか?と言われれば、絶対にありませんし、商品単体でみればアシックスのほうが質が高いことも多いです。
関連記事:スポーツ用品産業に将来性はあるのか?モノが売れない時代のスポーツ用品論
「こんなに機能が良いシューズなら、もっと売れるべきだ!」「なぜ売れないんだ?どうすれば売れるんだ?」
こんな視点で、モノを売ることで、日本のメーカーもNIKEやadidas同等の「価値」を実現できる可能性を秘めていると私は考えております。
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