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今回は「スポーツ経営人材」というテーマについて考えていきたいと思います。
これまで、日本という国はどちらかといえば「競技力向上」といったような、「スポーツをする人を育てる」ということに対して多くの税金を投入してきました。
簡単に言えば、「国際大会でメダルを取れるような選手を育成する」ということです。
ですが、近年はこうした「競技力向上」や「勝利」だけがスポーツの価値ではないのでは? という疑問が投げかけられています。
実際、人々の「健康」や「地域活性化」「まちおこし」などに、もっとスポーツを「活用」していこうという取り組みが増えてきています。
こうなると、「スポーツそのものを発展させる人材」よりも、「スポーツを活用できる人材」が求められてきます。つまり、スポーツを「主体」にするのではなく、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・データ」などのように、「資源のひとつ」としてスポーツを「使う」ということです。
今回はこうした人材を「スポーツ経営人材」として定義し、そうした人材はどこで必要とされているのか、現状や課題はなにか、といったことを書いていきたいと思います!
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スポーツ経営人材はどこで活動しているのか??
今回は「スポーツをささえる人材」という存在が、現状としてはどこを活動の場としているのか、それぞれの特徴や課題などを見て行きたいと思います。
ここでは、「スポーツ白書2020(以下白書)」を参考にして、「スポーツ行政」「スポーツ競技団体」「スポーツ関連産業」という3つの分野から考えていきます。
スポーツ行政人材 ~スポーツを幅広く推進していく~
都道府県や地区町村といった、「行政組織」にてスポーツに関わる人材の状況をまずは見て行きます。こうした人材は、日本という国をどうやってスポーツを通じて豊かにしていくかを考えて実行していく「スポーツ振興」や「スポーツ政策」といった分野の仕事をしている人達です。
基本的には国民や県民、市民の「税金」を「スポーツ」に対して投入することで、スポーツそのものの発展やスポーツを通じた社会課題の解決などをしていくことになります。
ですから、お金を「稼ぐ目的」でスポーツに関わっているわけではなく、「スポーツを通じて県民、市民の生活を豊かにする」ということが第一の目的です。(もちろん、結果としてスポーツ産業の発展に繋がることもあります)
ちなみに、「スポーツ行政人材」は基本的には「公務員」として職務をしているため、こうした仕事を目指す方はまずは「公務員」になることが必要です。
「白書」によれば、全国47の「都道府県」において「スポーツ政策」を担当している人材は1,927名(正規職員のみ)で、平均すると1つの県で約40名ほどが「スポーツ政策」に関わる公務員として活動しているようです。
内訳としては、
となっているように、やはり日本という国全体として「競技力向上」に対して多くの税金を投入していることから、「競技スポーツ」にかなり多くの人材を充てていることがわかります。
一方、今度は「市区町村」の単位で見てみると、790の市区町村における専任職員数の合計は4,528名で、平均すると5.7人というデータが出ています。
このことから、「都道府県」のスポーツ行政人材よりも「市区町村」単位でのスポーツ行政人材のほうが人数としては多いことが分かります。
「スポーツ」というものは基本的には「地域での取り組み」がメインになることから、市区町村単位でそれなりの人数の「スポーツ行政人材」を配置することは当然と言えます。
また、人材をどんな業務に割り振っているのかは、上記の「都道府県」と若干異なり、
✔ スポーツ施設管理 21.7%
✔ 生涯スポーツ 17.9%
✔ 総合調整 13.5%
✔ 健康増進 11.7%
✔ 地域活性化 10.6%
✔ 競技スポーツ 10.3%
となっています。
「都道府県」のスポーツ行政人材は「スポーツ施設管理」という仕事の割合がほとんどありませんが、「市区町村」のスポーツ行政人材においては最も高くなっています。
このことから、「県」が所有して管理するスポーツ施設などはあまりなく、公共スポーツ施設は基本的には「市区町村」の単位で管理されていることが分かります。
よって、「スポーツ施設関連」の仕事をしたい人であれば、「市区町村」単位の公務員になったほうが「スポーツ施設の運営管理」などに携われるチャンスが多いと思います。
逆に、「競技力向上」に関しては「市区町村」のスポーツ行政ではあまり業務の割合が大きくないため、そうした分野に関わりたい人は「都道府県」単位の公務員になったほうがチャンスがあるかもしれません。
こうした「スポーツ行政人材」は、全国的にもそれほど数が多いわけではなく、公務員として数年単位で勤務場所や担当部署・業務などが変わっていく可能性があります。※スポーツ以外の仕事をする可能性も高い、ということです。
ですので、大学などで「スポーツマネジメント」と呼ばれるような分野を専門的に学んでも、その知識やスキルをフル活用できるかというと難しいかもしれません。
また、「スポーツ行政側」からしても、大学の「スポーツマネジメント教育」で扱われることが多い「プロスポーツビジネス」や「スポーツイベントの運営方法」といったことに詳しい人材よりも、「予算の最適な使い方」や「法律に照らし合わせたスポーツ施設の維持管理」といったように、かなり実務レベルでの細かい仕事を着々と実行できるような人材を必要とする傾向があります。
よって、結局は「ゼロから仕事を覚える」必要があり、「大学でスポーツマネジメントを学んだかどうか」というのはあまり「アドバンテージ」にならない、というのが現状かと思います。
結果、「スポーツ行政側」には大学等で「スポーツマネジメント」を学んだ「スポーツ経営人材」に対するニーズがなく、大学等の「教育側」にしても、「スポーツ行政」の仕事は「実態が見えづらい」「生徒からの人気があまり得られない」といった理由で、「スポーツ行政に関するカリキュラムがほぼない」といった状況になるため、双方にメリットがなく好循環が生まれない、と言えます。
各競技団体の人材 ~スポーツの競技そのものを発展させていく~
日本には、さまざまなスポーツ競技団体があります。よくテレビやネットなどで聞くのは「日本サッカー協会」ですとか、「高野連(日本高等学校野球連盟)」といった組織です。
「野球」は特殊なのですが、基本的にはこうした「中央競技団体」が国内の各競技(または種目)の統括団体として、都道府県協会などの下部組織を傘下に収めて、活動をしています。
こうした「競技団体」に就職をしたいと思っている方もいるかもしれませんが、実際にこうした「競技団体」にはどれくらいの数の人や雇用形態の人が働いているのでしょうか。
「白書」が63団体に対するアンケートを行った結果によれば、こうした組織に所属するスタッフの合計は「3,652名」だったそうです。
上記の「スポーツ行政人材」と比べると少ない人数になっています。
さらにこの「3,652名」のうちから、役員(監事を含む)や評議員といった人たちを除いて、通常の「スタッフ」という立ち位置で仕事をしている人の人数は「902人」というデータが出ています。
また、その中には「アルバイト」「出向社員」「契約社員」といった人たちも含まれており、「正規雇用」のスタッフだけで見ると、「581名」と、その数はさらに少なくなります。
よって、こうした「中央競技団体」と呼ばれるような組織に「就職」をすることは、相当難しいことが分かります。
「白書」を刊行している「笹川スポーツ財団」が2018年に実施した「中央競技団体現況調査」によれば、「中央競技団体」で勤務するスタッフが、そこで働くことになったきっかけとして最も多く挙げているのが「縁故(友人・知人等も含む)による入社」です。
つまり「コネ採用」ということです。
スポーツ業界全体的に、「コネ採用」は低下してきているとされていますが、「ハローワーク」や「求人広告」などからこうした仕事を探して採用されることは、かなり険しい道です。
ですので、大学などで「スポーツマネジメント」で専門的に学び、こうした「中央競技団体」でそのスキルなどを活かそうと思っても、そもそも「舞台に立つ」ということすらできない可能性が高いです。
特に、「メジャースポーツ」と「マイナースポーツ」では収入の差が大きいため、マイナースポーツほど「人を雇う」ということが難しくなります。
「マイナースポーツを盛り上げたい」といったような気持ちを持っている方もいらっしゃると思いますが、ボランティアなどの「無報酬」あるいは「自分でお金を出費する」くらいの覚悟で関わる必要がある、ということです。
※そこまでの覚悟をしてまで、「スポーツを盛り上げたいかどうか」はよく考える必要があると思います。
※参考サイト 笹川スポーツ財団 中央競技団体現況調査 2018年度調査報告書
スポーツ産業関連人材 ~スポーツでマーケットを作り出す~
最後は、「スポーツ産業人材」です。上記までの「スポーツ行政」や「中央競技団体」では、スポーツ以外の仕事もやっていく必要があったり、正規雇用として採用されるハードルがかなり高い、そもそも関わっているスタッフの人数が非常に少ない、といった状況にあります。
ですから、公務員志望ではない一般的な新卒の方や中途の方が、「スポーツの仕事をしたい!!」と思ったときに、受け皿になってくれるのがこの「スポーツ産業」という分野です。
「スポーツ産業」というのは、ざっくり言えば、「一般企業としてスポーツに関わっている組織の集まり」と思って頂ければよいです。
全体としては、2016年度における「スポーツ産業」の従業者の合計は50万1,070人となっており、2012年度と比較すると、2万8,806人増加したとされています。
これは、大学などで「スポーツマネジメント」を学ぶ「スポーツ経営人材」の側からすると好材料と言えるかもしれません。
また、「体育館」や「ボウリング場」といった業態での従業員数の増加率が高く、「フィットネスクラブ」と「スポーツ・健康教授業」の増加人数が多くなっています。
「白書」によれば、「スポーツ産業」の中でも以下のような分野で、従業員の数が多いというデータが出ています。
「ゴルフ場」というのは意外かもしれませんが、日本のスポーツ産業の中でも「ゴルフ市場」は大きなマーケットとなっており、「矢野経済研究所」によれば、2020年のゴルフ用品国内市場規模は、メーカー売上高ベースで「2,315億8,000万円」というデータが出ています。
※参考サイト 矢野経済研究所 ゴルフ用品市場に関する調査を実施(2020年)
2位と3位についてはイメージしやすいかもしれませんが、「スポーツ用品店」や「スポーツショップ」と呼ばれるような業態で仕事をしている人達の数です。
アルペンやゼビオといった大型スポーツショップに行けば、かなりの人数のスタッフが働いているのが分かると思います。
同様に、「フィットネスクラブ」についてもコナミやセントラルといった大手のジムでは、1つのジム内にも相当な人数のスタッフが勤務しているため、こうした「フィットネス市場」で働く人達も多いことが分かります。
一方、学生の就職先として人気の「プロスポーツ」に関しては、経済産業省の「特定サービス産業実態調査(2018)」によれば、プロ野球団は12球団で1,715人、プロサッカークラブは「Jリーグ」などに加盟している28クラブで812人、というデータが出ています。
これを見れば、「プロスポーツクラブ・チーム」などへの就職は、「ゴルフ産業」や「スポーツ用品産業」「フィットネス産業」などと比較すると、非常に狭き門だということが分かります。
ですので、「スポーツ業界への就職は難しい」と言う方もいますが、「どこを目指すか」によって取るべき対策や難易度はかなり変わってくるということです。
「スポーツマネジメントを学べる大学」なども、「うちの大学は地元のプロスポーツチームと連携したカリキュラムや実習ができます」というのを宣伝材料にして高校生を集めるケースが多いですが、肝心な「プロスポーツ産業」の側に人材を受け入れる余裕がないため、「スポーツ関連の企業であれば、どこに就職してもいい」という学生や、「せっかくスポーツビジネスを学んだのに、卒業後に活かせる場所がない」といった、「理想と現実のギャップ」が全国各地で発生していると思われます。
スポーツ産業全体としてみれば、従業員数が年々増加しているため、単に「スポーツ業界に入る」という目的だけを達成するのであれば、それほど難しくはありません。大量のスタッフが必要となる「スポーツ用品販売」や「フィットネスクラブ」などの企業を目指せばチャンスは大きいです。
ところが、「プロスポーツ関連」となると一気に門が狭くなるため、「スポーツ経営人材」を育成する「大学」なども、「プロスポーツ」を「ネタ」にして生徒を集めたりすることの「責任」を、しっかりと果たすべきときに来ていると思います。
スポーツ経営人材の育成の現状と課題
今度は、「スポーツ経営人材」として育成される側、つまり「大学生」の話をメインに考えたいと思います。
「白書」によれば、大学の「体育・スポーツ系学部」の学生数は、2018年度は「4万5,924人」だとされています。
その中には、大学1年生から4年生までが含まれますので、単純に「4」で割ると、1年あたり約1万人弱の「スポーツ経営人材」を日本全国の大学で育成し、世の中に輩出していることになります。
過去からの推移でみると、2010年時点では「3万6,754人」となっていることから、「スポーツマネジメント」に関する分野を学ぶ学生は、年々増加していることになります。
しかし、実際には適切な「カリキュラム」が準備されていない大学が少なくない、ということが指摘されています。
2017年度の、スポーツマネジメント関連教育プログラムを保有する大学における科目の設置率は、「スポーツマネジメント(またはスポーツ経営) 」が82% (69/84大学)、「スポーツマーケティング」が51% (43/84大学)であった、とされています。
つまり「スポーツマネジメント学科」とか「スポーツマネジメントコース」といった名前で学科やコースを設置しているのにも関わらず、「スポーツマネジメント」や「スポーツマーケティング」といった内容の授業を実施していない大学が存在している、ということです。
私もひとつひとつの大学のカリキュラム等をすべて確認したわけではありませんが、「スポーツマネジメント」と言いつつ「産業論」的な内容の授業であったり、「スポーツマーケティング」という授業自体がそもそもない、という大学もいくつか存在していました。
なぜこうなってしまうのかというと、「教えられる人材がいない」からです。
原因は2つあるとされていて、1つは「短期間でカリキュラムを組んでしまうために、教員の育成が間に合わない」、もう1つは「スポーツマネジメント自体が、なにを研究し学ぶべき学問なのか定まっていない」ということです。
この辺の話は長くなりますので今回は深堀りしませんが、「スポーツ経営人材」の教育にも、こうした問題点や課題が色々と存在しています。
実際、私も大学で「スポーツマネジメント」や「スポーツマーケティング」という分野を学生に教えている中で、この分野を「教える」ということは非常に難しいと感じています。
そもそも、「何を学生に教えるべきなのか?」というところからスタートしなければいけないからです。
大学だけではなく、近年は民間の「スポーツビジネススクール」なども色々とありますが、「スポーツビジネスの成功事例」を解説するだけのようなセミナーなどもあり、本当に「成果に結びつくカリキュラム」を提供できているスクールは、かなり少ないのではないかと思います。
まとめ ~スポーツ経営人材の受難は続く~
今回は、\データでみる「スポーツ経営人材」の現状と課題 / というテーマで、「スポーツ」を「支える」人材の活躍場所や、育成の状況などを考えてみました。
スポーツの「競技者」やコーチなどの「指導者」といった、スポーツそのものに関わる人材については、これまでも多くの学校や養成機関等で育成されてきました。
しかし、今回扱ったような「スポーツを活用する人材」という意味での「スポーツ経営人材」については、まだまだ活躍できる場所が限られていたり、育成のための目的やカリキュラムが充実していない、という現状があります。
大学等で「スポーツマネジメント」を学んでも、結局はスポーツ関連ではなく別の業界へ就職するような人が多いのも、色々と理由があるのです。
「スポーツマネジメント教育」を提供する大学側も、手厚い進路サポートも含め、方向性を明確にした「カリキュラム」などを学生に提供する必要があり、学生の側も「将来のために何を学ぶべきなのか」ということをしっかりと考えなければいけません。
こうした「土台」をしっかりと作っていかない限り、「スポーツ経営人材」をいくら育成して「スポーツ産業」に送り出したとしても、「スポーツ産業」は成長していかないと思います。
みなさんも、「なぜ自分はスポーツビジネスやスポーツマネジメントを学びたいのだろうか?」ということをいま一度、考えてみてはいかがでしょうか??
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✔ 競技スポーツ 21.7%
✔ 生涯スポーツ 14.3%
✔ 地域活性化 8.4%
✔ 障がい者スポーツ 4.5%